薫る風

『今日もいい天気だね、愛香。なのにどうして泣いてるの。振り向いてもくれないしさ。久しぶりに二人でいるんだから、もっと話したいのになぁ。僕、何か悪いことしたかなぁ』
愛香は何も答えずにどんどん歩いていく。春の風に乗った新緑の香りと暖かい太陽の光が心地いい日なのに、なぜか愛香の頬は涙に濡れてる。水色のワンピースを着て左手で花束を携え、右手には日傘が握られている。他の人からは傘に遮られて愛香の涙は見えない。しばらく歩いて立ち止まった愛香。その目の前には、太陽の光を反射して眩しい御影石があった。そっと花束を置き、両手を合わせる愛香。僕はもう一度声をかける。
『愛香。ここは誰のお墓？　知らん顔しないで返事してよ』
「どうしてこんなに早く死んでしまったの。今日で一週間だね。雄二が交通事故にあってから。私、毎日泣いてるんだよ。本当にひどいよ。こんなに早く逝っちゃうなんてさ」
『そうか、僕死んだんだった』