男は知らない

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男は若くしてタイムマシンを発明して大金持ちになった。
豪邸に住み、大勢使用人を雇い恵まれた生活を送っていたが、威張ってばかりいたので周囲の人間は内心男を嫌っていた。

ある日、街角にボロボロの衣服をまとった老人が立っていた。
「そこのあなた、募金をしてくださいませんか」老人が懇願するように男へ声をかけた。
努力をしていないから貧乏なんだ。自業自得だ。他人の金をあてにしやがって。
「悪いけど、現金は持ち歩かないんだ」男は洋服をパンパンと手でたたく仕草をして、金を持っていないことをアピールした。「悪く思わないでくれよ」そう言って、その場を離れた。

男は知らない。
将来、会社が倒産して貧乏になることを。
周囲の人間は離れていき、病気になっても誰も頼る相手がいないことを。
タイムマシンで過去に戻り裕福だったころの自分に募金を頼むが、断られることを。
SF
公開:24/05/07 13:00

もりを

400文字という制限のなかで、あれこれと言葉を考えるのが楽しいです。最近では、54字の物語を書くことにもハマっています。

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