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僕はその日、夜行列車に乗った。しばらくウトウトし、目を開けて窓ガラスに誰かの姿を見つけハッとした。ガラスに映った僕自身だった。いや違う、兄だ。そこにはいるはずのない兄が映っていた。再び眠気に襲われ、目覚めると外に明かりが見えた。「終点」のアナウンスがあり、列車を降りるとホームに兄がいた。「どうしたの」驚いて言うと「今日は誕生日だから」と兄が笑う。「誕生日って、兄ちゃんだって誕生日だよ」と言うと「いや、もう僕には誕生日はないから。おめでとうを弟に言いたくて。22歳おめでとう」「ありがとう」と僕が言うと兄の姿は消えた。双子の兄は2年前に事故で亡くなった。以来、僕はもっと生きたかった兄の分まで生きようとしてきた。「頑張りすぎなくていいんだよ」と兄の声が遠くから聞こえた。心配してくれていたんだ。最近の僕は確かに頑張りすぎて疲れていた。
ファンタジー
公開:24/05/06 20:47
更新:24/05/07 05:35

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