契約

「お願いです、どうか私をお助け下さいませ！」

「ならぬ」

「何故でございますか？」

「ならぬと言ったらならぬ」


青年は、幾度となく住職に許可を懇願した。


「お父さん、もう許してやって」


隣室で盗聴していた住職の娘が、勢いよく襖を開いて言い放った。


「見てよ、彼の着てる服、袖がボロボロでしょ？もう5年くらい買い替えてないのよね？」

「はい、左様でございます」

「ならばもっと働いたらどうだね？さすれば服なんて買えるだろう」

「ですが…」


青年は徐に、労働契約書を懐から取り出した。


「月25万の契約ですが、毎月10万しか頂いておりませんで…」

「当然であろう。庭園の清掃を娘に任せっきりではないか」

「お父さんが私にそう指示したんでしょ？」

「まだ残業代も頂いておりません…」

「何ですって！？」


驚いた娘は、住職の金庫から計538万円を青年に渡した。