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足繁く通った喫茶店が改装のため長期休業するというので、最後にふたりで訪れることにした。
待ち合わせの時間。彼は遅れて現れた。
「電車に間に合わなくて。ごめんな」
彼は周りを気遣い、他人優先にするやさしいひと。だから電話で他に好きな女性ができたときいた時は耳を疑った。ようやく会う約束を取り付けられたのは三ヶ月先にあたる今日だった。
とりあえずなにか飲もう、と彼は苦手だったはずの酸味が強い珈琲を注文する。そして新しい彼女はどこが素晴らしいか、聞いてもいないのに語り始めた。
私たちは電話一本で別れたことになっていた。問いただすのも虚しく、店の窓と向こう側を歩いてゆく人々をぼんやり眺めながら、作業のように珈琲を口に運ぶ。
いつか今日のできごとを思い出すこともあるだろう。その時あの選択は間違っていなかったと胸を張りたい。私はその場で彼の連絡先を消去する。
窓には少しだけ晴れた表情の私が映っていた。
待ち合わせの時間。彼は遅れて現れた。
「電車に間に合わなくて。ごめんな」
彼は周りを気遣い、他人優先にするやさしいひと。だから電話で他に好きな女性ができたときいた時は耳を疑った。ようやく会う約束を取り付けられたのは三ヶ月先にあたる今日だった。
とりあえずなにか飲もう、と彼は苦手だったはずの酸味が強い珈琲を注文する。そして新しい彼女はどこが素晴らしいか、聞いてもいないのに語り始めた。
私たちは電話一本で別れたことになっていた。問いただすのも虚しく、店の窓と向こう側を歩いてゆく人々をぼんやり眺めながら、作業のように珈琲を口に運ぶ。
いつか今日のできごとを思い出すこともあるだろう。その時あの選択は間違っていなかったと胸を張りたい。私はその場で彼の連絡先を消去する。
窓には少しだけ晴れた表情の私が映っていた。
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公開:24/05/08 12:39
☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。
清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選
ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)
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