散るチル満ちる

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久しぶりに夜ベランダに出る。アパート前の公園の桜は、いつのまにか散っていたようだ。
日々の仕事に忙殺されているうちに、咲いていることにすら気づいていなかった。

急な退職者が出て、もともと人員不足で忙しかった業務がさらに忙しくなった。朝早く家を出て最終電車で家へ帰る。そんな日々が続いたが、やっと落ち着いてきた。忙しかったけれど、おかげで仕事を効率よく進める方法を覚えたし、職場の連帯感も強まったように思える。

部屋から日本酒とグラスをトレイに載せて戻ってくると、グラスになみなみと注いだ。「乾杯。お疲れさまです」小さな声でつぶやく。ひとくち酒を口に含む。
こんなにゆったり過ごす時間はいつぶりだろうか。すると、どこからか桜の花びらがひらひらと舞い降りてきて、酒の表面に着地した。ひと足遅い花見だ。なんだか嬉しくなった。
空がやけに明るい。顔をあげると、金色の丸い月の中でウサギが餅をついていた。
その他
公開:24/05/06 17:00
更新:24/05/06 17:08

もりを

400文字という制限のなかで、あれこれと言葉を考えるのが楽しいです!

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