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 小学生のころ、わたしは算数が苦手だった。
 特にあの分数というやつがくせ者だ。1を5で割ると5分の1なのは分かる。でも1つのケーキを5人で分けるとなると話は別だ。
 先生は、ケーキやジュースをみんなで分ける場面を想像してごらんと言って、黒板にケーキの絵を描く。でもそんな説明が、逆にわたしを混乱させた。
 目の前にクリスマスケーキがある。イチゴが載った5分の1とチョコレートが載った5分の1と、何も載っていない5分の1は同じじゃない。またクリームがたっぷり載った5分の1とあまり載っていない5分の1も違う。1を5で割るより1つのケーキを5人で分ける方がはるかに難しい。どうしたらいいんだろう。
 授業中手を挙げて、そんなことばかり口にするわたしのことを、先生も同級生たちもうんざりした顔で見ていた。 
 おしゃべりだったわたしが、無口な子どもになったのはそれからだ。
その他
公開:24/05/01 17:39

ナラネコ

老後の楽しみに、短いものを時々書いています。

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