白馬の瞳

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 旅を続ける白馬の瞳は、海のように蒼かった。まるでラピスラズリのような瞳は、白馬がかつては、海の見える地で暮らしていたことを示しているようにも思えた。
 白馬の右の瞳には、街が閉じ込められている。数百年前、白馬は自身が暮らしていた街を戦乱から守るために、自分の瞳に閉じ込めたのである。
 それは、自然の力と白馬の意思とが奇跡的に重なりあうことで起きた事件であった。
 以来、白馬は瞳に街を閉じ込めながら、旅を続けている。白馬の寿命は町の寿命と同じものとなった。だから、白馬は数百年の時を経ても死ぬことはなく、誰に服従するでもなく旅を続けているのである。
 だが、白馬は寡黙であった。だから、瞳に街が閉じ込められていることを知る者はおらず、それは白馬と街にとって幸いであった。
 白馬は今日も旅を続ける。街が滅び、自身が滅ぶその時まで、決して歩みを止めない。
ホラー
公開:24/04/30 08:11
本格ファンタジー

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