防波堤

私が岩手を旅したときのことだ。リアス式海岸に沿って走る三陸鉄道は、11年前の朝ドラ、「あまちゃん」の舞台になったことでも有名である。その列車に乗って、宮古駅から30分ほど走らせると田老駅がある。そこは、20メートルをゆうに超える津波の被害に遭った場所だ。

駅を出て高台に造設された住宅街を突っ切ると、そこには巨大な白い防波堤がそびえ立っていた。というより、港を取り囲む「要塞」のほうが分かりやすい。

私は、その「要塞」の頂上へ行く階段を登って、そこから海を見下ろしてみた。

すると、地平線へと沈む夕陽が、周りの海と赤く一体化しながら、住民に気づかれぬまましれっと事を終えようとしていた。

そして陽が沈むやいなや、ひんやりとした風が陸の方から吹いてきて、北国の厳しい冬を一段と甦らせた。

自然の厳しさを和らげるはずの防波堤が、より一層、自然の厳しさを際立たせているのでは、と感じた瞬間だった。