ブラス

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ハノイの廃品工場に捨てられている部品の山には、私の大好きだったぬいぐるみの残骸が残されている。そいつの名をブラスと言った。私がまだ幼かった頃に、父が誕生日プレゼントで買ってくれたものだ。

両親は共働きで、一人で家にいる時間が長かった。夜遅くになっても親が仕事で帰らないときは、ブラスはいつも私の傍にいてくれた。ずっと枕の隣で寝るまで見守ってくれる、自分だけの第二の親みたいなものだった。

中学生になって、クラスの女の子に恋をした。彼女は華奢で私より背が高く、おっとりした目つきで私のほうに時々視線を合わせる。次第に、大半の時間を彼女に費やし始めた。

そして段々とブラスに触れる時間は短くなり、棚の端へと、押入の奥へと追いやられていった。

ある日、押入からカタッという物音がした。開いてみると、奥底でブラスが横に倒れ、ほぼ部品だけに変わり果てていた。それでも、その目はずっと私を見つめていた。
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公開:24/05/03 04:41
更新:24/05/03 04:54

かずま( 関東地域 )

2023/10/19に参戦した新参者です。忌憚のないコメントお待ちしております。

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