電気の子

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僕は物心ついたばかりの頃、電線だらけの街に住んでいた。街には時折こんな警報が流れた。

「今日の天気は大荒れです。電線がニロニロになるでしょう」

ニロニロというのは、熱で膨張するか凍りついて送電速度が低くなる状態のことを指すらしい。
電力会社に勤めていた父は警報が発出されると必ず出動しなくてはいけなかったので、母やきょうだいたちと計画停電した家から一歩も出ずに留守番するのが常だった。状況が理解できない幼いきょうだいたちは、泣きながら母に「いつ父ちゃんは帰ってくるの?」と訊ねていたものだ。今となってはとても懐かしい思い出である。

それから二十年。すっかり電線地中化された都会の視察を終えた僕は、全国に散らばったきょうだいたちに、「時代は変わった。僕たちの使命は解除し、自由に生きよう」とメッセージを送信した。
ファンタジー
公開:24/05/02 09:23

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)

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