8
3

満月の夜。
静寂に寄り添うように、祖母が糠床を混ぜる音が聞こえてきた。

「おばあちゃん、まだ起きてたの?」

「…ふふ、このお漬物はねぇ、お月さまの綺麗な日に混ぜると、とっても美味しくなるのよ」

「なんのお漬物?」

「月の音色」

ぽかんとする私に祖母は微笑み、夜色の菜箸を戸棚から取り出してきた。

「耳をすましてごらん…」

私は目をつぶり、言われた通りに耳をすましてみる。すると、微かに「リーン…」という綺麗な音色が聞こえた。はっとして目を開くと、いつの間にか小さな白い月のようなものを、祖母は菜箸で掴んでいた。

「これが月の音色。長く漬ける程、綺麗な音色になるのよ」

あれから10年。
入社式の朝、私の前には黄金色に輝くあの日のお漬物。祖母の温かな笑顔が見守る中、一口齧れば甘さが広がり、私の門出を祝福するような「リーン…」という美しくも優しい音色が部屋中に響き渡った。
ファンタジー
公開:24/04/29 14:13
更新:24/04/29 14:17
月の音色 出発の音色 月の音色10周年 おめでとうございまーす♪

ネモフィラ(花笑みの旅人)( 気の向くまま )

いつもご訪問ありがとうございます!
元:ネモフィラは咲うです。大原さやかさんのラジオ「月の音色」では、ペンネーム:花笑みの旅人として投稿しております。

日常に寄り添い、読んだ人がほんのすこ~しだけ前向きになれるような物語を書けたらいいなぁと思っている街灯の明かりをこよなく愛す人です。

最近1番幸せだなぁと感じるのはゆっくり眠っている時。その次がお散歩してる時かな?

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容