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満月の夜。
静寂に寄り添うように、祖母が糠床を混ぜる音が聞こえてきた。

「おばあちゃん、まだ起きてたの?」

「…ふふ、このお漬物はねぇ、お月さまの綺麗な日に混ぜると、とっても美味しくなるのよ」

「なんのお漬物?」

「月の音色」

ぽかんとする私に祖母は微笑み、夜色の菜箸を戸棚から取り出してきた。

「耳をすましてごらん…」

私は目をつぶり、言われた通りに耳をすましてみる。すると、微かに「リーン…」という綺麗な音色が聞こえた。はっとして目を開くと、いつの間にか小さな白い月のようなものを、祖母は菜箸で掴んでいた。

「これが月の音色。長く漬ける程、綺麗な音色になるのよ」

あれから10年。
入社式の朝、私の前には黄金色に輝くあの日のお漬物。祖母の温かな笑顔が見守る中、一口齧れば甘さが広がり、私の門出を祝福するような「リーン…」という美しくも優しい音色が部屋中に響き渡った。
ファンタジー
公開:24/04/29 14:13
更新:24/04/29 14:17
月の音色 出発の音色 月の音色10周年 おめでとうございまーす♪

ネモフィラ(花笑みの旅人)( 気の向くまま )

読んでくれてありがとう!

寒い季節になったから、気が向いた時にふらりと立ち寄ってゆるーく投稿しています。

少し早いですが、よいお年を!

 

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