出発の音色

大学への進学を機に、上京した私が住み続けているアパートの部屋の扉は他の部屋の扉と大きく異なる点がある。外出時に妙な音が鳴るのだ。前の住人による改造で、退居後に気づいた大家さんが直そうと試みるも断念。扉はそのままに他の部屋より家賃を安くして入居者を募集していたから私はここに決めた。ランダムに出る音はどれも間が抜けていて、最初は「なぜこんな改造を？」と思っていたが、今ではなんとなくわかる気がする。

入社式の朝、緊張する私を送り出した「パヨパヨメ～ン」という音に、ギャグを言ってよく笑わせてくれた父の変顔が浮かんできた。仕事でミスした翌日の朝、重い気持ちの私を送り出した「ミョンミョロ～ン」という音に、朗らかな一言でいつも心を軽くしてくれた母の声を思い出した。

ポンペレポヨ～ン♪
扉を開けば、朝から玄関に響く愛しく珍妙な音。肩の力を程よく抜いて、私は一日として同じ日などない今日へとまた踏み出す。