ヘリオトロープ

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 ヘリオトロープの香りが、娘の口から漂ってくることに、当惑を禁じえなかった。
 酒場で偶然出会った娘は、薬草師なのだと自ら語った。野山を巡って薬草を採取し、多くの薬を調合するのだという。
 酒が進み、多少踏み込んだ会話も許されると思った頃合いで、私は娘の口臭について尋ねた。彼女は一瞬、懐かしい過去を思い出すような遠い目をして、次のように語った。
 とある山で薬草を採取している時に、疲れから眩暈を覚えた。近くの木陰で休んでいると、木の上から羽衣を着た美しい女性が現れた。その女性は娘の姿を見ると、笑みを浮かべ、その唇に口付けをして消えた。
 途端に眩暈は治り元気になったが、その代わりに口からヘリオトロープの香りがするようになったのだという。
 祝いなのか呪いなのか分かりませんよねと、相変わらずヘリオトロープの香りを口から漂わせながら、娘は言葉を締めくくった。
ファンタジー
公開:24/04/29 08:29
本格ファンタジー

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