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 藤崎杏華という魔女がいる。
 小学校以来の幼馴染なのだが、私とは違って地元を脱出し、日本全国を飛び回っている。文字通り、箒に跨り、空を飛んであちらこちらを旅して回り、絵を描いて生活の糧としているのである。
 杏華は時々、私に不思議な土産を送りつけてくる。季節ごとにピッタリのものを送ってくるところが、なんというか小憎らしい。
 つい先日、包装されて届いたのは、大きな栄螺の貝殻だった。拳大ほどもある大きなものだ。貝殻の中には手紙が入っていて、耳を澄まして聞いてみてと記されていた。
 言葉通りに耳を澄ませてみると、すごく遠くの方から波の音が聞こえた。
 ああ、音を記憶してるのか。そう思って、何の気なしに栄螺の中を覗く。青々とした海原が、栄螺の奥で輝いていた。
 記憶じゃない。本物だ。いい意味で予想を裏切られ、思わず口元に笑みが浮かんだ。
ファンタジー
公開:24/04/24 07:56
春の季語

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