雪女が愛した男

私は雪女だが、人間社会で人間に紛れて暮らしている。
私は雪女故に冷たく、誰からも距離を置いている。親しい間柄の人間と言えば夫くらいのものだ。
私と夫との関係は冷え切っている。だけど、仲が悪いわけじゃない。むしろ良好と言えよう。
何せ夫は”ぬくもりアレルギー”を持っている。ぬくもりに、体が拒否反応を示してしまう。
故に夫も冷たい人で、誰からも距離を置かれている。私でさえ、夫と触れ合う事は滅多にない。
つかず離れず。それが私達夫婦の丁度いい距離感だった。
そんな夫が今日亡くなった。９７歳。大往生と言えよう。
その夫が、私に手紙を残してくれていた。
『僕も、君と同じ気持ちでした』
その一文に私は救われた。
周りから誤解されようとも、私は紛れもなく夫を愛していた。
でもその気持ちを口にすれば、夫の心に温もりを与えてしまう。だから言えないでいた。
夫の遺してくれた手紙に私の凍てついた心も少し溶けた。