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 春の初めになると、服屋が近くを通りかかる。全国各地を、風を使って旅をしている少年で、季節の珍しい衣服を売ってくれる。
 ブカブカの青いTシャツにジーンズ、目深に黒い学生帽を被っているので、素顔は見えないが、微かに見える顔や口調からは、私よりも大分若く、小学生くらいにも思える。
 今年の春にやって来た時は、春服を色々と見せてくれた。
 鶯の声で織られたコート、桜吹雪を綴り合せて作られたTシャツ、蜃気楼製のスカートなどなど、もの珍しいものばかりだった。
 特に気に入ったのは、芝桜のショールだ。衣一面に芝桜が咲き誇っている。風が吹けば花の匂いが辺りに立ち込め、香水いらずですよと笑う少年の言葉に、思わず頷いていた。
 芝桜のショールはいい値段がしたものの、それを補って余りある魅力があった。
 購入したその日の夜に、月光の下でショールを羽織ると、芝桜たちが嬉しげに揺れた。
ファンタジー
公開:24/04/23 08:09
春の季語

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