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小さい頃からたんぽぽが大好きだった。花も、綿毛をフーッてするのも。
昨日も駅近くの歩道の端に生えたたんぽぽの綿毛をじっと見ていた。風で綿毛が一斉に飛び、私は綿毛を追いかけて走った。
見知らぬ風景が広がっていた。たんぽぽが咲き乱れる広い野原に、麦わら帽子の女の子。綿毛を見つけてはフーッとしている。振り向いた顔は子どもの頃の私。その私が、私に手を振って、その手にはたんぽぽの花束。その子は私に花束を手渡すと、そのまま遠ざかって行った。
いつの間にか駅の近くまで戻っていた。
思い出した。あの日、たんぽぽの花束をお母さんに渡そうと急いで家に帰った。お母さんが倒れていた。渡せないままになってしまった花束。目を開けてくれなかったお母さん。あの日から私の中の何かが止まっていた。私の手にあるこの花束は、あの日渡せなかった花束。その花束をお母さんのお墓に供えた。
やっと渡せた、お母さんに。あの日のたんぽぽを。
ファンタジー
公開:24/04/22 23:02

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