1
3

 近くの公園に藤棚がある。
 春になると、色とりどりの藤が垂れ下がり、訪れる人の目を楽しませている。
 藤の先端からは、ポタリポタリと雫が垂れることがある。満月の日の昼間に垂れていることが多い。
 潮の満ち引きと同じように、藤の雫もまた、月の満ち欠けと関係があるのかもしれない。
 藤から垂れる滴は甘く、採取して水に入れると、それだけでいい飲み物ができる。
 だから、藤の雫は採取しておいて、春一杯はこれで飲み物を作る。たくさん取れれば、春限定の藤ジュースとして販売もするのだが、多くは自分用にとってある。
 夜に水の中に滴を垂らす。透明な水が藤の色に染まるのは、見ていてとても楽しい。
 窓を開けて、春の夜風を入れながら、藤ジュースを飲むのが好きだ。爽やかな甘さと仄かな藤の香りが合わさって、春の只中にいるような気分にさせてくれる。
ファンタジー
公開:24/04/26 07:55
春の季語

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容