麗らか

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「麗らかも春の季語なんだよ」
 そう言ったのは、誰だったか。
 なにせ、幼いころの記憶だからはっきりとはしない。母だったのだろうか。それとも父か。あるいは、歌人だった祖母の言葉か。
 祖母は魔女ではなかったが、魔法に使うための短歌を頼まれてよく作っていた。
 彼女は春の季語が好きだった。柔らかな春の日差しのように、魔法もまた優しくなるように願いを込めて、短歌を作っていた。
 魔法を短歌に乗せて扱う手法は、遠く古代の頃から存在していたそうだ。三十一文字の言葉の連なりが、魔法という形式によく合っていたのかもしれない。
 祖母は亡くなるまでに何冊も本を出していた。そう言えば、本に載る祖母の短歌には、春の季語を織り交ぜたものが多い。
「麗らかも春の季語なんだよ」
 だからこの言葉も、きっと祖母のものなのだろう。春を愛した歌人だったのだから。
ファンタジー
公開:24/04/25 08:15
春の季語

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