飛び込む本

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「読んでいて、物語の中に飛び込みたくなったら青いボタンを押してください」
「はい」
「現実に戻りたくなったら赤いボタンを押してください。一瞬で帰れます」
「簡単なものですね」
「ただ、使い方を誤ると事故につながりますので、注意してください」
「事故とは?」
「物語の世界でリモコンをなくしたら、現実には戻れません。リモコンは肌身離さず持っていてください」
「他には?」
「皆さん、スリルを味わいたくて、主人公危機一髪という場面で飛び込みたがります。ただ、その時に命を失ってしまったら、生き返れません」
「なるほど。肝に銘じておきますよ」
 客は新製品「飛び込む本」を買っていった。かなり念を押して注意喚起しているので、まだ事故は起きていない。
 ただ、開発者の私としては残念なことが一つある。客には物語の世界を堪能してほしいのだが、あまりに面白い物語はNGなのだ。失踪者続出となってはいけないので。
その他
公開:24/04/21 20:00
更新:24/07/01 19:25

ナラネコ

老後の楽しみに、短いものを時々書いています。

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