入口出口

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公園に立ち寄ると、棚仕立てした藤の花が見事に咲いていて、したには紫色の扉が置かれていた。
ノブに手をかけて奥に押してみれば、目に飛び込んできたのは広大な花畑。私は迷いなく足を踏み出した。
穏やかな春風に浮かれながらしばらく散歩したけれど、気づけば終わりの見えない滑り台を下っていた。
スピードは秒ごとに速くなっていく。そのあいだに思い出したのは、歩んできた道のりだった。
苦しかったばかりじゃない、楽しいこともたくさんあったはずなのに、去来するのは母の厳しい顔ばかり。一度も褒めてくれたことがない母の口癖は、『あんたなんか産むんじゃなかった』。病に倒れた晩年の彼女は、助けてと懇願しながら亡くなった。
眩しい光が前方に見えた。私はありったけの力を振り絞って泣き声をあげた。
どうやら最初からやり直しになってしまったようだけれど、今度は私が母を都合よく育てようと思う。
ファンタジー
公開:24/04/20 13:32

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)

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