僕と二つの棺

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「萌、どうしてこんなことになったんだ……!」
 僕は彼女の棺の前で嗚咽した。心の中では、何色もの混沌が渦巻いている。

「ご愁傷様です。もしかして、萌と知り合いだったんですか?」
 萌の親戚である中年女性が、寄り添うように語りかけてきた。
「はい……僕はこの人を愛していました」
「彼氏ということですか?」
「そのとおりです。遊園地で楽しい思い出を作っているときに、こんなことになるなんて……」

「それは大変でしたね。何せ萌は遊園地のデート中、不幸にも通り魔に刺されてしまったものですから。あなたにお怪我はなかったんですか?」

「はい。何せ僕はあの日、あそこには行っていませんでしたから」

 僕はそう言いながらゆっくりと立ち上がる。萌の隣の棺で眠る、見知らぬ男をにらんだ。
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公開:24/04/21 17:23

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