まぼろし観覧車

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「やっぱやめよう」
「今さら何言ってるの」
 近づいてくる赤いゴンドラ。係員に促され、俺と梓は乗り込んだ。

「観覧車なんて久しぶり」
 向かい合う梓が目を細める。秋晴れの午後、眼下の遊具には人影がまばらだ。
「相変わらずショボい遊園地だな」
「ここ来月で閉園だって。お義母さんとの約束、果たせてよかったわ」
「死に際の言葉を真に受けて、別居中の夫婦で観覧車か。子どもたちとならまだしも――」

 ガタン。いきなりゴンドラが停止した。
「おいマジかよ、あず……」
 そこにいたのは、白い木綿のワンピースを着た女性。
「哲也、遊園地は楽しい?」
「お、お袋!?」
「お父さんが生きていればねえ。哲也は将来家族とここへ来なさい。たくさん思い出を作るのよ」
「……」

「そろそろ着くわよ」
 梓の声で我に返る。いつの間に一周した? こみ上げるものを抑え、俺は妻を見つめた。
「なあ今度……家族で来ないか」
ファンタジー
公開:24/04/18 13:43
更新:24/04/21 21:28

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