泡沫

「ね！明日はどこに行く？」
彼女は物欲しげな顔で僕を覗き見る。
「君とならどこでも」
「また出た！それ反則！」
笑い転げる僕と彼女。

二人だけの寝室に聞こえるのは、彼女の寝息のみ。僕は彼女が起きないように、そっと手を回しながら、優しく彼女を抱き寄せた。
そこには優しいシャンプーの薫りと、彼女の温もりがあった。
愛しさが募り、より強く彼女を抱き締める。

『先生、女性の方は絶望的です。男性の方だけでも！』
『分かった！ さあ、戻ってきてください！』

その刹那、頭を掠める誰何の声。
そして横転する車、血だらけの彼女の姿。
僕は歯を食いしばる。
『違う！』
徐々にフラッシュバックする記憶。と、共に彼女の体温が少しずつ下がっていく！そして薄れゆく彼女の残像。
僕は彼女にしがみつきながら叫んだ。
「夢なら覚めないでくれ！」