ひとりごと

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「初めて出会った時から、あの子は私に夢中だったわ。
 個性豊かな仲間たちの中で、美しい曲線を持っているのはわたしだけ。それがわたしのいちばんの自慢だった。
 あの子はなにかを確かめるかのように、私の身体をいろいろな形のものに押し当てたのよ。あの子はそのたびに、いろいろな数字を呪文のようにつぶやき、わたしはあの子の役に立っているという実感で、胸がいっぱいだった。この幸せな時間がいつまでも続けばいいと思って。
 でも、成長するにつれ、あの子はしだいにわたしに冷たくなっていった。わたしはじゃまもの扱いされるようになり、隅っこに追いやられ、もうあの子は私に見向きもしない」
 分度器はそう言って嘆いた。
ファンタジー
公開:24/04/16 22:10

ナラネコ

老後の楽しみに、短いものを時々書いています。

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