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 陽炎は、単に風景が揺れるのではない。その揺らぎの中から、この世界とは異なる世界の者達がやって来ることも多いのだ。
 今日、雑貨屋に来たのも異世界の住人だった。紫色のとんがり帽子を被り、手には紫水晶の嵌った杖を手にしている。年齢は私よりも下のように見えたし、女性のようにも見えたのだが、それはあくまでも私から見えただけで、本当のところは分からなかった。
 陽炎のように揺れる彼女は、身振りで薬草が欲しいと伝えてきた。報酬は、朱色に輝く石の通貨だった。綺麗だし珍しいので、薬草は一束サービスした。
 彼女を外へ送ると、ちょうど陽炎が今を盛りとばかりに揺らめいている。
 最後に彼女は私にペコリと一礼すると、陽炎の中に飛び込み、揺らぎの中へと消えた。
 陽炎が少しずつ鎮まっていく中で、異世界でも一礼するのが礼儀作法なんだなと、全く別のことに感心してしまった。
ファンタジー
公開:24/04/16 08:10
春の季語

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