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 久しぶりに田楽屋がやってきた。
 大学生くらいの年恰好の女性で、数年に一度やって来る。名前は知らない。声をかける時は「田楽屋さん」と呼んでいる。それで事足りているので、他の情報は必要ないのだ。
 向こうだって、私の名前は知らない。いつも「お客さん」としか呼ばない。彼女もまた心得ていて、それ以上の踏み込みが不要であることをちゃんと知っているのだ。
 今回、田楽屋が売り込みにきたのは、虹の田楽だった。虹で作られた田楽で、名前に相応しく七色だか八色だか、はたまた十五色だかに輝いている。
 味は保証しますよと言われた。賞味期限は今日から三日。なら夕飯に二本ずつ食べて六本。けれど、味見したいからさらに一本。
 結局、七本買ってしまった。その場で一本食べてみる。蒸した南瓜のように甘かった。
 甘いですねと言うと、でしょうと言って、田楽屋は誇らしげに笑ってみせた。
ファンタジー
公開:24/04/16 07:57
春の季語

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