落とした消しゴムを捜す男

数年前から遺失物センターに変な男がやってくる。
「消しゴムの落し物、ありませんか？」
最初は買い直せばいいだろうと思い、相手にしなかった。だがそれも数年続けば心配になってくる。
大切なものなんだな…改めて話を聞く事にした。
「あの消しゴムはですね…線を消す事に特化しているんです…男女の友情のライン、会社のハラスメントのライン、大人と子供のライン…そうした線引きを、あの消しゴムは消せるんです。だから悪用されたら大変なんです。犯罪の線を消されたらもう終わりだ…」
頭を抱える男性に、ふと思いついた事を聞いてみる。
「その消しゴムがあれば、脱税と政治資金の線引きも消せるのか？」
男は「もちろん」と答えた。
ならもしかしたらその消しゴム、総理大臣が拾い、使っているかもしれない…
「総理大臣があの消しゴムを？ないない」
私の考えを男は笑って否定する。もしかして、窃盗の線を消されているのでは？と思った。