お守らず

祖母は”お守り”ならぬ”お守らず”を肌身離さず持ち歩ている。
何でも祖父から貰ったもので、その時に「お守りなんかに頼らずとも、儂がお前を守ってやる！」と言われたそうだ。
それがプロポーズだったらしい。
だからお守らずの中には何も入っていなかった。…祖父が亡くなるまでは。
その日以来、祖母はお守らずの中に祖父の写真を入れている。
「この国では、亡くなった人は仏さんになる言うでしょ？だから、こうしておけばあの人が私を守ってくれるような気がしてね」
素敵な考えだと思った。お守らずがお守りになるんだ。
「お守りにはならないよ。でもこれを持っていると、見守られている感じがするのよ。あの人を近くに感じるの」
祖母からお守らずを借りる。糸のほつれた箇所から、偶然にも写真の祖父が私を見ていた。
その鋭い眼光に、思わず背筋が伸びる。
「ね？あの人に見られていると思うと、守られるようなヘマ、出来ないでしょ？」