名画でショート008『踊り子』(エドガー・ドガ)

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舞台は幻想の世界だった。
純白の衣装を着た踊り子たちが、大勢の観客たちの目の前で、しなやかな肢体を存分に見せつける。
出番を待つ踊り子たちは、舞台の袖から主役が舞う姿を見続ける。
さらにその背後から少女たちを見つめるシルクハットの紳士。
紳士は、少女たちのパトロンだった。少女たちを舞台に出すのも、踊らせるのも、放逐するのも紳士の胸一寸で決まってしまう。
少女たちは動物園の檻の中にいるフラミンゴであり、レイヨーであり、幼いキリンだった。動物園から捨てられた、生きていけない悲しい生き物。だから、彼女は踊りながら悲しみの表情を浮かべる。観客に悟られないよう、跳びあがり、上を向いた瞬間だけ浮かび上がる本当の姿。
ショーは終わった。
客席から盛大な拍手が上がる。踊り子は足を交差させ、指先をまるで白鳥のように泳がせながら、丁寧なお辞儀をする。
仮面の下の彼女を知る客は、だれもいない。
ファンタジー
公開:24/04/12 23:53

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