30年後の里帰り

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久しぶりに、地元の祖父母の家へ帰ることになった。暑い夏の日の事だった。
「ただいまあ」よく通る声でそう言い、靴を脱ぐ。返事はない。
特に構わず、居間へと向かう。着くや否やすぐに扇風機をつけ、縁側の戸も開けて風の通りを良くする。すると、ようやく涼しさが感じられるようになった。鴨居に吊られた風鈴が風に揺られ、ちりんと鳴る。一緒に、青々とした草の匂いも漂って来た。
目線を手元に落とし、一枚の古びた写真を見る。大勢の人が並ぶ後ろにある、巨大な山々と田んぼ達。目の前の風景と一緒だ。
これは30年ほど前、この場所から撮られたものだ。当時はこの家にも沢山人がいて、いつも煩いほど声がしていた。30年で人は大きく変わる。親戚は皆都会へ行き、祖父母は死に、孫は遺品整理に訪れる。
行きに買ったスイカを台所で切り、景色を見ながら独りで食べる。また強い風が吹き、草の匂いと風鈴の音が、ざあっと駆け抜けていった。
その他
公開:24/04/12 23:42
更新:24/04/12 23:49
夏かしい 里帰り

ちむ( 愛媛県 )

文を書くことにハマり、最近活動を始めたひよっこ高校生です。お手柔らかにお願いします。

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