メリーさんのゴーランド

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僕は、回転木馬。
円形の屋根の下、ぐるぐる駆けめぐる。

遠い記憶がよみがえる。

モンゴルを駆けていた。
どこまでも続く草原。
さえぎるものがない広い空。
羊の群れを横目に僕は走る。
遠くに円形の屋根のゲルがある。
一頭の羊が、連れられていく。
その羊がこちらを見つめている。
人間たちの今晩の食事となるのだ。
自分の未来が分かっているのか。羊の瞳が悲しそうだった。

「おい、この回転木馬はもう寿命だな」
営業時間後、点検中の遊園地の作業員が言った。
僕のことだった。

その瞬間、思い出す。
あの悲しそうな瞳をした羊は、僕だった。
今度生まれ変われるなら、草原を駆けめぐる馬になりたい。
命が終わる瞬間に、そう願った。

生まれ変わった僕は、回転木馬になった。
残念ながら、広い草原ではなかった。
けれど、僕は満足だった。
背中にまたがる人間のぬくもりが、僕の心までも幸せにしてくれた。
ファンタジー
公開:24/04/12 16:32
更新:24/04/14 13:53

もりを

400文字という制限のなかで、あれこれと言葉を考えるのが楽しいです。最近では、54字の物語を書くことにもハマっています。

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