遊び足りない子供たち

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――お父さん、僕まだ帰りたくない。

「参ったな。完全に迷ったぞ」
出口を探して遊園地を歩き続け、足はすでに棒のようになっていた。空は夕焼けに染まりつつある。
「そんなに広かったか、この遊園地」
周囲を見回すと、乗り物はまだ動いている。だが、人の姿は客もスタッフも見当たらない。
「どうなってんだまったく」
ふと、目の端に人影が止まった。初老の男性が一人でベンチに座っている。
あの人に聞いてみるか。
「すいません」
老人は、僕を見ると前置きもなしに言った。
「あんた一人か」
「え? ええ、僕ひと……」
――お父さん。
あれ?
「あ、いや、家族で」
ああ、そうだった。
「そうか。わしも、昔家族でこの遊園地に遊びに来てな。そして父に言ったんだよ、まだ帰りたくないと」
――僕まだ帰りたくない。
あの日、僕は。
「あれからもう60年になる。あんたは?」
「……30年になります」
その他
公開:24/04/11 21:35
更新:24/04/11 22:11

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