指定席と特等席

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「相乗りよろしいですか?」
ゴンドラの窓越しに浮遊霊が声をかけてきた。
「あいにく指定席でね」
そう言って断ったが、奴はお構いなしに乗り込んできて、私の向かいにふわりと浮かんだ。
「いやぁ良い景色だ。特等席ですね」
「15分で飽きますよ」
動かない観覧車の何が楽しいものか。頂上で止まったゴンドラから半身を乗り出し、無邪気に景色を眺める浮遊霊をしばらく眺めた。とうに廃園になった遊園地の、壊れた観覧車に閉じ込められたまま、来る日も来る日も空ばかり見ている。

「堪能させていただきました。そろそろお暇しようかな」
15分後、姿勢を戻した浮遊霊がぬけぬけと言った。
「どうです、貴方も一緒に降りませんか?」
「無理に決まってるでしょう。見ての通り地縛霊なので」
「大丈夫ですよ。地面じゃなくて空中ですから」
馬鹿げた屁理屈につい笑ってしまった。
ギシっと錆びた音を立て、ゴンドラがゆっくり降下を始めた。
ファンタジー
公開:24/04/09 08:50
プチコン5~遊園地

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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