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中3の春だった。
近くの空き地で花柄のかわいいキッチンカーが営業を始めた。小柄なお姉さんが一人でマフィンを売っていて、サービスで、もれなく「幸せの種」を配っているという。
気になって友達とマフィンを買いに行った。「はい、幸せの種もどうぞ」お姉さんは小さな袋と育て方の説明書を手渡してくれた。中には種が10粒。ごく普通の種に見えた。

種を蒔き、学校で、芽が出た、茎が伸びたと友達と報告し合い、嫌だった学校に楽しみができた。
ついに花が咲いた。友達は銀色の花、私は虹色の花。お互いの花を見に行き、喜び合った。
「お姉さんにも報告しよう」と空き地へ走ったが、キッチンカーはもういなかった。

私達は短期間で友達から親友になった。ぎすぎすしていた私の心は、花を育てて穏やかになった。街全体が優しくなった気がした。
きっと幸せの種のお陰だ。

お姉さんは、今日もどこかで「幸せの種」を配っているだろうか。
その他
公開:24/04/08 22:24
更新:24/04/13 07:24

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