たそがれ遊園地

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父親の遺産が手に入ると聞いて、急いで飛び出してきたあたしに落ち度があった。
まさかそこに、手作り遊園地があるとは。

周囲は山。盆地状の土地に、大型遊具が複数配置されている。あたしと母さんを捨てた時点で人にあらずとは思っていたけど、金持ちの考えは理解しがたい。

「換金するには動くかどうか確かめないとね」

電気の供給源を探し当て、ブレーカーを持ち上げる。夕暮れに包まれた辺り一帯にキラキラした照明が点灯し、楽しげな音楽が流れ始めた。呆れてため息もでない。

わざと大きな声で試乗宣言してから観覧車に乗り込む。ひどい山奥だけど、にぎやかな眺望は悪くない。やがて最高部までたどり着くと、ふいに幼い頃の記憶が頭をよぎった。

三人で出かけた遊園地。あたしは終始ご機嫌でこう言った。

「この景色が全部あたしのものだったらいいのに」

これは父のプレゼントなのだ。あふれてきた涙はしばらく止まらなかった。
その他
公開:24/04/09 21:41
更新:24/04/11 09:02

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)

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