夢の遊園地

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 遊園地という名の楽園があるそうだ。
 子どもが親に連れていってもらう場所。友だちがいる人間が、皆で繰り出す場所。恋人がいる人間が、二人で向かう場所。
 僕には親はない。心を許せる友だちもいない。恋人はおろか、誰かを好きになったこともない。遊園地に入るには金が必要だそうだが、それもない。
 遊園地は、僕には決して行くことのできない夢の地だ。僕は、毎日、決まった場所決まった時間に決まった仕事をこなすだけ。それが僕の人生なんだ。
 わかってるんだ。遊園地に行くには、親より友だちより恋人より金より、勇気が必要なんだってことは。繰り返される日々の外に飛び出す勇気が。その勇気が僕にはない。
 遊園地。どんなに素晴らしいところなんだろう。こんな僕にも、いつかそこに行ける日がくるだろうか――。

 地上百メートルの高みから、宝石のように美しく輝く街を眺めながら、観覧車のゴンドラは今夜も楽園を夢見ている。
その他
公開:24/04/09 16:15
遊園地

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