名画でショート007『毒をまくキルケ―』(ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス)

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彼女は湖の中に毒を流し続けていた。
桶にためた濃緑色の液体を、肩の位置にかかげ、ゆっくりと傾ける。毒液はらせん状の筋となり、泡を立て、湖面の奥へを消えていく。
彼女の毒は、嫉妬からできている。愛欲、金銭欲、名誉欲、ありとあらゆる欲が毒の源となる。彼女は嫉妬という人間の汚い部分を濃縮して、湖に注ぎ続ける。
この湖には、スキュラが水浴に訪れる。美しいスキュラこそ彼女の恋敵であり、純真清廉な心を欲の毒で染め上げてやる。そうすれば、彼の心は戻ってくるだろう。
だが、この湖は川に流れ、海にまでつながっていることを、彼女は忘れていた。
嫉妬の毒は海を通じて世界中に回り、蒸発して雲となり、いまや世界中に嫉妬があふれかえっている。
地上だけでなく、もちろん天上界も、そして冥界も。
宇宙が嫉妬に溢れる日も、そう遠くないのかもしれない。
ファンタジー
公開:24/04/06 15:43
更新:24/04/06 15:45

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