遊園地の男

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 家族で遊園地に来ている。遊園地になった、と言い張る男に何もできなかった、元医師として。

 モトバヤシさん。検査の結果、あなたは38歳の男性以外の何物でもありません。
「先生。お子さんは?」
 います。中二の長女と小五の長男が。
「つまり父だ」
 何がおっしゃりたいのです?
「今日の検査を先生が受けたとして、先生が父だということが分かりますか?」
 いえ。そういう検査ではないので。
「ならばわたしが遊園地だという診断もつかないでしょう。先生が父であることを自覚するのと同じように、わたしには遊園地としての自覚がある」
 しかし、遊園地は複合的な施設でしょう。
「父だって臓器や関係性などの複合的な構造物です」
 あなたは、遊園地に少しも似ていない。
「それはわたしが唯一無二の遊園地だからです。先生も来園すれば分かる。みなさんでどうぞ」
 モトバヤシさんはそう言って、優待券を四枚置いていった。
ファンタジー
公開:24/04/05 21:42
シリーズ「の男」 プチコン5遊園地

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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