観覧電話~回春

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観覧電話をかけに遊園地へ来た。
「どちらへお繋ぎしましょうか」
「50年前の春に繋いでください」
観覧車乗り場で通話料分のチケットを払う。交換手がうなずき、運転室から旧式の黒電話を引き出した。
「こちらで呼び出しが可能です。ご自身でおかけになりますか?」
実家にあったので使い方は覚えている。受話器を取って耳に当て、円盤に指を入れてダイヤルを回す。
ダイヤルの動きにつれ、0から9まで番号の振られたゴンドラが、ジーコロロ、ジーコロロと回転しては戻る。やがて観覧車から呼び出し音が響き、黒かったゴンドラが鮮やかな桜色に染まった。

一本の桜の樹になった観覧車から、家の形のゴンドラが降りてきた。
就職を機に地元を離れ、戻らないまま別れてしまった。
「ごゆっくりお話しください」
カチャンと開いた玄関から懐かしい呼び声がする。降りしきる花びらの中、真新しいランドセルを背負って駆けだした。
「ただいま!」
その他
公開:24/04/05 21:15
プチコン5~遊園地× 毎週ショートショートnote 桜回線

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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