スタアの人影

押上博士の助手の妖子さんは、研究所への出勤の朝、道路を曲ると、見知らぬ街に迷い込んでいた。
そして自分の横に、高級車が停車し、ドアが開く。

ふと気づくと彼女は“楽屋”のような場所にいた。
「妖子様、出番です」
アシスタントのような女性に導かれ、舞台に出ると、会場の観客から万雷の拍手。
彼女は無意識のうちに、美しい曲を歌い、スポットライトを浴び、高まる拍手の中に立っていた。

そう、妖子さんは知らぬ間に知らぬ世界で、スタアとなっていた。
楽屋に戻った彼女は、さっきから自分の背後に、何か不思議な存在がいることに、改めて気づいた。
ふり向くとそれは、自分にウリ二つの人影。
それは言う。「続ける？」
妖子さんは一瞬まよって「いいえ」と答えた。

途端に周囲の景色が消え、彼女は普段の出勤途中の道の角に立っていた。
研究所の自分の席で、彼女はさっきの人影の顔色が、死人のように青かった事を思い出した。