わからず屋の箱

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レトロ感を楽しむ遊園地ができた。
ひどく退屈なアトラクションが、近頃の若者に受けているらしい。
定年退職し、暇を持て余していた俺は、ものは試しと一人で訪れ、『わからず屋の箱』と命名された迷路に入った。
壁面と天井が鏡でできており、行き止まりになるたびに肝を冷やした。鏡面に映る俺の顔が、亡き父にそっくりだったからだ。
「親父が化けて出てきたのか?」
冗談のつもりでつぶやいたが、抑揚まで父に似ていて背筋が寒くなる。そして気づいた。かつての父と同じように、息子を思い通りに支配していることに。
「帰ったら、将来は自由に選択しなさいと言ってやろう」
迷路を抜けた俺の足取りは、心なしか来たときよりも軽くなっていた。
ファンタジー
公開:24/04/07 15:17
更新:24/04/11 09:02

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)

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