武装団船バイキング

0
3

妻が被観覧者に選ばれた。絶望する俺を妻は気丈に慰めた。「たったの十年。あっという間よ」
祝いに多くのひとが訪ねてきた。妻の友人は「よかったね、ありがたいね」と涙した。役人が見張っているから下手なことは言えない。
野次馬も大勢来た。見知らぬ男が妻を舐め回すように見たあと、俺を見て鼻で笑った。「分不相応な嫁を貰うから」と呟くのが聞こえて俺は男を殴った。制止しようとする役人もぶん殴った。
独裁者が憎かった。奴の私設遊園地には一周十年かかる巨大観覧車がある。一通り生活の出来るワンルームゴンドラに、妻のような美しい女を閉じ込め、日常を観覧するのだ。
役人に拘束される直前、俺は同志によって今のアジトに匿われた。
「攻勢の時だ! 月まで届くという奴のバイキングを乗っ取り、最高到達点から観覧車に飛び移る」リーダーが言う。「妻を、娘を、恋人を、俺たちのヴィーナスを奪還する」
俺たちは海賊のように叫んだ。
SF
公開:24/04/05 12:45
更新:24/04/08 06:57

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容