名画でショート006『道化セバスティアン・デ・モーラ』(ディエゴ・ベラスケス)

1
1

その小人症の男は、二つの瞳で正面を見据えていた。
常人とは少し異なって生まれてきたばかりに、体のサイズは子供なのに顔つきだけ大人になっているばかりに、人目を惹く身体であるだけに、道化として王室に飼われている。
王様の貴重なペットとして、まるで動物園のラクダやキリンのように、慰み者として晩餐会に呼び出される。
ただ少し、常人と異なるだけなのに。
見世物なので立派な衣装を着させられ、ひげも整えられ、髪型もセットされるが、それは彼の異形を目立たせるためだ。
こんなに知性に溢れているのに。
こんなに感情が豊かなのに。
こんなに創造性に富んでいるのに。
そのことに、王侯貴族は気が付かない。
唯一、彼のことを理解しているのは、目の前で絵筆を握っている画家のみ。
彼は、画家の瞳を、じっと見つめる。画家は、彼の内面を、絵筆の力でもって掻き出していく。
全ては、画家だけが知る。
その他
公開:24/04/01 10:46

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容