きらめくフライパン

フライパンのみを作り続けて早７０年…気が付けばこの道のプロになっていた。
人間国宝とまで呼ばれる儂は、１年に作るフライパンの数を決められている。最大３６５個。１日１つだ。
そうなると気になるのはうるう年の過ごし方。この日はどうしているのか、気になる人も多いようだ。
儂はこの日、儂が打ったフライパンの修理をしている。
人間国宝の儂が作ったフライパンも、当然使い続ければいつしか壊れる時が来る。
直せないものは仕方がないが、直せるものは極力直すようにしている。
この直しの時間が、儂は好きだ。過去の儂との対話。昔はこの箇所が苦手だったな…と思うと、この箇所は昔の方が綺麗だな…なんて、フライパンを通して腕比べ。有意義な時間である。
使いこまれたフライパンは油が沁み込み、いい味が出ている。このきらめきは儂にも出せんものだ。
そんな持ち主に敬意を持って儂は修理する。フライパンに人間味が沁み込んでいく。