遊園地の産卵

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 「始まりました。B3コーヒーカップ前」
俺たちは満月の夜のたび、各地の遊園地で作業をしていた。今夜の現場は開園一年目の、つまり初産卵の遊園地だった。
「シゲ。ガウンの袖を捲るな」
「ミカ。スクレーパーをD5へ」
 園内の様々な場所に生じる産卵孔から噴出するイクラに似た卵を、全て、割らないように回収するのだ。

 午前二時。指揮車内にアラートが響いた。
 「E4の擁壁から滝のような産卵」
 「F6観覧車基礎から産卵」
 最悪だった。擁壁と基礎に義務付けられている「産卵防御特殊施工」に手抜きの疑いがある。産卵は地盤を、限定的にだが液状化させるというのに。
 「三班と七班を回せ。ミカ、国交省のシバさんへ緊急報告」

 ともあれ、明け方には全作業を終え、全員が除染を済ませた。車に乗り込むと、新入りのシゲが俺に聞いてきた。
「隊長。卵ってなんなんすか?」 
「俺たちの日常さ」

 朝日が昇る。
 
ファンタジー
公開:24/03/31 18:57
更新:24/04/20 06:48

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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