還覧車

まさかこの歳になって一人で遊園地に来るだなんて。息子達に券を貰ったのだが、身分証が必要だという。

―今年60歳を迎える方しか、乗って頂けないんです。
シルクハットの老人が説明してくれた。
―きっかり１５分です。１分あたり４年間になります。

ゴンドラに乗り込むと、景色は遊園地のものではなかった。ああ、小学校の校庭、桜が散る中高の通学路。観覧車の窓の景色が変わっていく。雪の京都。就職しての大阪。頂上に近づくと眼下に摩天楼が拡がる。沖縄の青い海。戻ってからの景色は変わらない。後半は回るのが早いな、と思っている内に地面に着いた。

―いかがでした？
―ああ、楽しかった。
―何よりです。
―もう、乗れないのだな。
―はい、これは還暦の方が一度だけ乗れる「還覧車」ですので。

―人生の最後に、またここにおいで下さい。
指さした先に回転木馬の建物。
―走馬塔でございます。
老人は深々とお辞儀をした。