君を祝う三分咲き

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「やぁ、久しぶり」

昇進の報告に大学時代の恩師の家を訪ねた。少し皺の増えた先生の目元に月日の流れを感じつつ、教え子を見守る温かな眼差しは少しも変わっていないことに笑みが零れる。軽い挨拶を交わすと、先生は縁側のある部屋へ通してくれた。

「いい季節にきたね。桜がちょうどいい頃合いだ」

庭を見ると大きな桜の木があった。三分咲き…といったところだろうか?桜の見頃といえば満開のような気もするが…。私がそんなことを考えていると、先生はいつの間にかに器を持って桜の下に立っていた。ゆさゆさと揺れ始める桜。舞い落ちる花弁の描く軌跡が次々に薄桃の蕎麦へと変化していく。

「この桜が振る舞う蕎麦は絶品なんだ。僕は満開や七分咲きより、仄かに色づき桜の薫る三分咲き蕎麦が好みでね。昇進おめでとう!」

目の前に出された桜の蕎麦を、先生お手製の桜花出汁につけてすすれば、私を祝う春風が鼻から喉を通り過ぎていった。
ファンタジー
公開:24/03/28 18:00
更新:24/03/28 19:00
研究室ライブ 蕎麦を振る舞う桜 私は散り際が好きさ 三割蕎麦とかあるよね?

ネモフィラ(花笑みの旅人)( 気の向くまま )

読んでくれてありがとう!

寒い季節になったから、気が向いた時にふらりと立ち寄ってゆるーく投稿しています。

 

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