鉄竜点睛

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そのジェットコースターは未完成だと言われていた。
故事成語ランドの『画竜』は、竜の形をした墨色のコースターだった。画竜点睛の故事にならい、瞳に当たる二つのライトの片方を消してある。両方点けてしまうと、命を得て天へ昇って行くというのだ。

長らく片目走行を続けたが、ある時整備係の不注意で、両目ともライトを点けてしまった。
さあ来るぞ。乗客やマスコミは世紀のアクシデントを期待し、固唾を飲んで見守った。
両目の点った画竜は何事もなくレールを走り、天に昇らないまま走行を終えた。
その日を境に、画竜の人気は急降下していった。


やがて画竜は老朽化のため廃止を迎え、車両を撤去された後にレールと骨組みだけが残った。
誰も乗らなくなったレールから錆びたボルトが抜けた日、鉄の軋む様な咆哮が高々と響いた。

骨組みを振り落としたレールが首をもたげ、穴の開いた瞳に朝日が射し込むと、暁の天へ悠然と昇って行った。
ファンタジー
公開:24/03/25 21:06
プチコン5~遊園地

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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